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【稽古場レポート】ながめくらしつ 新作現代サーカス『この世界は、だれのもの』

 

2024年3月に、現代サーカス集団「ながめくらしつ」の最新作『この世界は、だれのもの』が上演される。

───人々はみな、自分の世界を生きている。人と人とが関われば、各々の世界は変異し、自身と他者の境界は、ときに曖昧なものとなり、ときにすれ違い、ときに争いを生む。どのように振る舞うのが正解なのか、正解はあるのか、是非の判断を下すのは誰か、そもそも最適解を選ぶ必要はあるのか。鑑賞者へ向けて、自身と世界のありさまを問う。」

(公演フライヤーより引用)

 

2月下旬某日、稽古場であるCircus Laboratory CouCouに潜入した。

本作のキャストは以下の通り。
 目黒陽介 演出家・ジャグラー
 安岡あこ ダンサー
 入手杏奈 ダンサー・振付家
 目黒宏次郎 サーカスアクター
 イーガル 現代音楽作曲家・ピアニスト

この日はアクター4名が先に集合してクリエーションを進めていき、追ってイーガルが合流する形だ。到着したメンバーは稽古着に着替えたりストレッチをしたりウォーミングアップをして過ごしていた。目黒の声掛けで稽古が始まる。

机と椅子が4脚ずつ運ばれてきた。同じ形のものはなく、それぞれが独特の色・形をしている。前回までは白木の状態で組まれていたものを使っての稽古だったが、今日からは着彩されたものを使用する。塗料が塗られたことによる変化を確かめるため、キャストたちは手で触れたり上に乗ったりしながら感触を確かめていた。

ロープを使う演目のクリエーションが行われる。
演出の目黒からキャストへ、そのシーンの意図や表現に関するキーワードが伝えられた。それを踏まえ、入手・安岡が実際に動いて振付として落とし込んでいく。そこに目黒がフィードバックを行いながら、意図にそぐう動作を拾い上げ、ブラッシュアップし、丁寧に作りこんでいった。

彼らのコミュニケーションの精度には目を見張るものがあった。演出家の意図をキャッチするアンテナと、それを的確にアウトプットできる表現力、柔軟性とスピード感。超人たちである。とはいえ、演出家からキャストへのトップダウン的なクリエーションではなく、キャストからも「こうし てはどうか」「このような見せ方はどうか」と積極的な提案があり、演出家もそれを積極的に採用していくのは印象的だった。今回はキャストの全員が過去のながめくらしつ作品において出演経験があり、すでに信頼関係が築かれているのだろう。相互にリスペクトがあるのが感じ取れた。

それにしても、ロープの演目はとてもハードだった。キャストたちからは、都度はあはあと苦しそうな息遣いが聞こえてくる。稽古の時点でかなりの迫力があり、目の前で見ていて思わず身を引いてしまう瞬間があった。大胆で激しい動きではあるがロープの扱いは繊細で、一歩間違えれば怪我につながってしまう。見せ方と並行して安全面にも考慮しながら、ひとつひとつの動作を確認しクリエーションは慎重に進められていった。

稽古が進む中、ここでイーガルが合流した。ここまでの無音あるいは録音の音源でも見入ってしまうような演技であったが、生の演奏が加わると景色ががらっと変わって見える。最近の『ながめくらしつ』作品は基本的にイーガル作曲の楽曲が使われているが、今回も美しい旋律と、時に締め付けられるような音でパフォーマンスと共存していた。キャストたちにも緊張感が増して、細かい演技や表情により深みが増したように感じられた。

稽古も終盤、全体の流れを通してみることとなった。実際に目撃していただきたいので内容の言語化は割愛させていただくが、外的環境の雑音がある中、照明や音響が入らぬ段階でこの気迫である。物凄い。

ベテランである入手・目黒の表現力が素晴らしいのはもちろんのこと、ここで特筆したい のが、安岡・目黒(宏)ら若手チームの演技力だ。舞台上での安岡の振る舞いは、観客を世界観へ引きずり込むだろう。そして目黒(宏)は、私も個人的にいろいろな場面で拝見しているのだが、今までに見てきたどの「目黒宏次郎」とも異なる。演出家であり主宰でもある目黒は、今回の作品を通して若手への育成にも力を入れていると話しているが、彼ら若手チームの成長はおそらく著しいものであると感じている。サーカスパフォーマーの身体能力の高さはそれだけでとても価値のあるものだが、そこに演出の力が加わることにより、その魅力は幾倍にも増すものだということを見せつけられた。

本番までによりブラッシュアップされ、さらに劇場の整った環境の中でどういった作品となっていくのか期待が膨らむ。是非とも多くの人に目撃してほしい。

Text&Photo by 赤羽

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現代サーカス集団・ながめくらしつ新作公演「この世界は、だれのもの」

2024年3月1日(金)~3日(日)
東京都 現代座会館 現代座ホール

演出・構成:目黒陽介 音楽:イーガル 舞台美術:照井旅詩
出演:目黒陽介 安岡あこ 入手杏奈 目黒宏次郎 / イーガル

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